Kinosaki Residence
ケの内のハレ
志賀直哉の小説『城の崎にて』の舞台として知られる山陰の温泉街、城崎。
この歴史ある街のメインストリートから1本奥に入った場所に「検番」と呼ばれた建物が残っていた。かつて芸者さんたちの寄合所として使用されたこの「元検番」を、住宅としてリノベーションするプロジェクトであった。
芸者さんで賑わいを見せた往年から、その役目を終えた今日までの50年を超える時間の流れと、経年変化した建築が持つ美しさと力強さと対話し、丁寧に解体、補強、時にそれを可視化していく作業を行った。
大空間に梁がかかる3階のスペースは、私の旧友でもある施主夫婦が大切にする、家族・友人・知人との交流のための象徴的な空間となる。
天井板を外した時に出合った、この美しい張り目を持つ梁の風合いをそのままに、存在感を活かした空間設計を思案した。キッチンを家の中心的な場として機能させたいとの想いで、外の小川を望む仕事場のすぐ横に寄り添うようにキッチンカウンターを配置。
どの場所からも見渡せ、目線を合わせられ、皆が一つの場所と時間を共有することがでる。
カウンターを正面から見ると、施主が今日まで愛用してきた様々な家具や調度品が50年という年月を経た梁とコントラストをつくり、よりモダンな印象を与え、ダイニングエリアは2箇所設けることで、季節や時間帯、また気分によってキッチンとの距離感を選んだ使い方が可能になった。
このキッチンは「Houzz」にて行われた「LIXIL×Houzz "キッチンで暮らす"施工事例コンテスト」で金賞をいただいた。
建物や施主の想いに寄り添い、空間を再目的化してきた仕事が大きな評価をいただき、とても光栄に感じており、「検番」が辿った50年の時を経て新しく命を吹き込まれたこの住宅が、施主の幸せな暮らしと共にこれから先50年以上の時を超えていくことを願う。
Data
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Client
T
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Residence,Exhibition
Toyooka,Hyogo (Japan)
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Completion
2016.2
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Total area
276.00㎡
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Design
Masaki Kato
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Construction
SODENAGA KENSETSU
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Photo
Takumi Ota