IWAI OMOTESANDO

オーダーメイドの結婚式を手掛けるCRAZY WEDDINGが、自社で初めて構えることになった拠点が「IWAI OMOTESANDO」。代表と社長の二人がそれぞれ、私たちが過去にデザインした店舗を気に入って訪れてくれていたご縁から始まり、彼らにとって新しい挑戦となる今回の場所をコンセプトから共に考えていくことになった。
プロジェクトの初期にいただいた「不必要な装飾のない、本質的な空間にしたい」という要望を受け、まず私たちが掴んだ感覚は、建築とデザインを通して哲学が感じ取れる空間こそ今回のコンセプトになり得るのではないか、というであった。
哲学のある建築とは、体験した人が良さを感じられ、腑に落ち、それをまた別の人に言葉で伝えられる強度を持った空間である。日々アイデアを磨き上げていくクライアントと何往復も対話を続けた結果、参列者への手紙や人前式といった具体的な要素が徐々に見え始め、「人生のさまざまな“祝い”の場にふさわしい、全員が主役になるセレモニーの空間」というコンセプトが導き出された。主催者側が見せたい姿を披露するだけの空間ではなく、その場に集う全員が“祝う”ために主体的に存在できるようなデザインを形づくっていくことにした。

コンセプトを体現するために必要となったデザインは、高砂や教会式の内装ではなく、この場を訪れる一人ひとりに“お祝いをする気持ち”をつくること。
そこで、エントランスアプローチとして20mの「参道」を設けた。人がひとり歩ける幅のこの参道は、建築の入り口に入るまでの数十秒の時間と空間をつくり出し、祝いの席への神聖な気持ちを高める機能となります。施設の顔となるこの参道により、二棟に分散した印象だった既存建築を一つにする建築的な解決と、二棟をまたぐ施設内の動線に「神宮の森」をつくることにつながった。明治神宮に植生する種から選んだ植物で構成されたこの中庭は、季節折々の姿で四季を感じさせてくれる。
エントランスホールを入ると現れる「レターギャラリー」は、中心にポストを設置したシンメトリーな空間で、ポストには主催者から参列者に宛てた手紙が入っており、パネルに各参列者の名前と主催者との関係を表すキャプションが表示され、主催者とのつながりを思い出すと共に、参列者同士の交流を促す仕掛けとしている。
中庭を抜けて「参道」と同様に一人分の幅に設定した廊下を進むと、人前式のための「セレブレーションホール」が広がる。廊下の丸窓から差し込む外光と景色が、空間の中心に立つ主役の背後を美しく演出。スポットライトのみとして照度を落とした廊下は、ホールへの入り口を最低部としたゆるやかなすり鉢状のスロープになっており、大切な人たちと過ごす今日という日が、これまでの時間とこれからの未来の間の一点であること感じさせるための設計とした。
ホール上階は、住宅をコンセプトにした部屋は記念日や誕生日などのさまざまな祝いの席に対応できる。

これまで私たちは設計事務所として、音源にある微量なクライアントの声を「デザインというアンプを通して増幅させるレシーバーとしての役割」を感じている。しかし、今回のCRAZY WEDDINGとの協働は、その音源であるコンセプトの成り立ちから共に試行錯誤したプロジェクトであった。
オーダメイドウェディングという新しい風を業界に吹き込んできたクライアントにとって、「IWAI OMOTESANDO」は人の人生と共にある“祝う”という行為の本質を見直し、更なる価値を未来に伝えていくための場所である。
手掛けた場が、何よりも使用する人のため、建つ場の文脈を再構築するものであること。そして、長期的に場が育っていくことを見込めるような、裏打ちされた理念があること。設計事務所、ウェディングのプロデューサーと、畑は違えど根底にあるこの想いは、私たち両者が初めから一致していた点だったと言えると思う。

Data

  • Client

    CRAZY,Inc.

  • Event hall, Office, Gallery/Studio

    Omotesando,Tokyo (Japan)

  • Completion

    2019.1

  • Total area

    000.00㎡

  • Design

    Masaki Kato, Yuki Sato

  • Construction

    DBRAIN

  • Project management

    CAMP SITE Inc.

  • Detailed design

    CAMP SITE Inc.

  • Photo

    Nacasa&Partners