VIP parking -成都駐車場-

中国四川省の省都、成都にある商業施設Taikoo Li 。
低層で広々とした緑豊かな商業施設に反し、低い天井の地下駐車場は、網の目の様に張り巡らされた設備パイプが一層圧迫感を感じる、どこにでもある空間であった。その駐車場一角に「世の中にないVIP専用パーキングをデザインしてほしい。」という依頼を受けた。
これまで、人のための心地よい空間を作ってきた私たちにとって、この課題は大きな壁のように感じた。目的地へ急ぐだけの駐車場という空間に、どれだけ意匠にこだわった素材やテクスチャを用いてもそれは本質的解決にはならない。そもそも解決することがここにはあるのか?ここを訪れる人に買い物以上の体験を提供することができるのか。と自問していた。

そんな折、盛唐の詩人として有名な杜甫の作品「春夜喜雨」に出会ったことが大きなブレイクスルーとなった。
成都で読まれたこの歌は「好い雨というのは、降るべき時節を心得ていて、春が来るとすぐに降り始める。風に吹かれてひっそりと夜に降り始め、細やかに音もたてず、万物を潤す。」と始まる。
この詩から、成都の横を流れる河の流れ。春の雨。静かに浮かぶ舟の情景を想像した。これまで考えていた空間とは正反対の、静かな時の流れである。
この「情景」を形にすべく、私たちはインテリアデザイナーであることを棚に置き、ライティングデザイナー、グラフィックデザイナー、サウンドクリエーターの仲間たちとこの情景を創ることに徹した。

車の移動とともに河の流れの様に揺らめく無数の天井からつられた照明。その揺らめきに合わせるように刻一刻と変化するサウンド。施設内グラフィックも水面に揺らぐサイン計画を用いるなど、「揺蕩う河の流れ」を表現した。
本質的に私たち現代人が必要なものは、他者との比較による優越ではなく、素の自分と出会える時間と空間なのではないかと思う。愛車から降りた時に、ふと立ち止まり、揺らめく光と音の波に包まれた私たちは ひとときだけでも自分に還ることができるのかもしれない。それこそがVIP的な体験ではないだろうか。
本質的な解決案に理解を示してくれたクライアントと空間設計の幅を広げてくれたパートナークリエイター達に感謝を込めて。


Data

  • Client

    成都乾豪置业有限公司

  • Public Space, Car Parking

    Chengdu (China)

  • Completion

    2023.4

  • Total area

    1000.00㎡

  • Design

    Masaki kato, Stuart Tyler

  • Project management

    Hanako Tani

  • Graphic Design

    6D

  • Lighting Design

    LightMoment

  • Sound Design

    SOUND CoUTURE