BEFORE9

いわゆる“京都らしさ”のない風景が広がる京都烏丸御池交差点からすぐの好立地に残された、3軒続きの小さな町屋の1つを酒&ビアバーへと改修するプロジェクトであった。

造り酒屋だったオーナーは蔵元の復活を目指す一方で、減少する京都町家の保全活動を進めたいという想いを持っており、その事業と建築の再目的化のコンセプトにシンパシーを感じてデザインをスタートした。
この町家は、奥行きのある京町家とは異なり、手前のボリュームが素材感と共に時代から取り残されたような違和感を放っていた。そこで、この違和感を最大現に生かしつつ、ふと立ち止まりたくなるような、人と建築の距離を近づける場を烏丸通りに向かって発信することを命題とした。

既存の土間を利用しつつ内外に開かれた空間を創造するため、モルタル、ラワンといった既存建築で多く使用されていた素材を用いて、現代の職人の技と経年変化したそれとの対話を見せることとし、土間台所があった場所には日本家屋のかまど「竈(くど)」から着想したモルタル塊のクラフトビールサーバーを設け、世界各地のクラフトビールがサーブされる。
桜材の四面を削ぎ落として製作した長さの異なる八角形のハンドルは、この店のアイコンとなっている。
店内は奥に進むにつれて床・家具の高さに変化をつけており、様々な使い方とコミュニケーションが生まれるきっかけを期待し、また、入り口方向に振り返ると、すぐそこにあった烏丸通は借景としてファサードにフレーミングされている。
イカ釣り漁船用ランプの特徴的なフォルムの下に、様々な環境から集まった個性豊かな人・酒・ビールが一体となって集う場をイメージしながら設計を進めていった。

猫の額ほどの裏庭だった場所は光を取り込む吹き抜けの階段室とし、2階の床面積の半分以上を吹かすことで生まれた上下の一体感は、店内に入った瞬間に心地よい開放感を感じさせてくれるものとなった。壁面に貼った有孔ボードは、古い建築に対して規則的で清潔な印象をつくり出すと共に、隣家への防音機能も兼ね備えている。この壁面がオーナーの大好きなモノクロ映像を投影するのに最適な位置であったことは、施行中の嬉しい発見であった。

このバーで時代を超えて語られていく酒と会話と建築とが、現代の京都の新しい灯となることを期待している。

Data

  • Client

    SAKAHACHI INC.

  • Restaurant

    Kyoto (JAPAN)

  • Completion

    2016.5

  • Total area

    59.47㎡

  • Design

    Masaki Kato

  • Co-design

    CHAB DESIGN

  • Construction

    TANK

  • Photo

    Takumi Ota