日常がたまる場所から、
街を考える。
Column
2023.09.01
Masaki Kato
Interview & Text : Hisashi Ikai
Photo:akira sakuma
Sketch:Masaki Kato
広島と愛媛をつなぐしまなみ海道のちょうど真ん中に位置する生口島(いくちじま)。島北部の瀬戸田エリアは、瀬戸内の穏やかな海と緑豊かな小山のあいだに、地元の人々がいつも通りの日常を過ごす風情のある古い街並みが残っています。
私がはじめてこの地を訪れたのは、2021年。家族とともにAzumi Setodaに宿泊したときのことでした。のどかな島の景色を見ながらゆったりと過ごす優雅な時間は格別のもの。小さな島でこんな体験ができるんだと感動しながら、周りを少し散策。でも、人々で賑わっているのは瀬戸田港周辺だけで、島のなかには目ぼしい立ち寄り先がなく、少し寂しく感じたことを覚えています。
その半年後、瀬戸田の開発を手がけるStaple/しおまち企画と一緒に新しいプロジェクトを立ち上げるチャンスがやってきたとき、島で過ごした時間を思い出しながら瀬戸田につくりたいと思ったのが、「日常のたまり場」でした。
Azumi Setodaを筆頭に、瀬戸田には晴れやかな滞在先がすでにいくつか存在しています。でも、もう少し肩の力を抜いてリラックスした感覚が楽しめる場所をつくれば、観光のために島を訪れるゲストだけでなく、ここに暮らす住民たちもが日頃から心豊かに過ごすことができるのでは。そんなことを思い描きながら、店舗と住居(宿泊)とが一体になった「ショップハウス」のデザインを考えていきました。
2023年4月に完成した第一号の〈Shop house〉は、1階に惣菜と雑貨を売る〈ひ、ふ、み〉と2階に中長期滞在型の宿泊施設〈SOIL Stay〉。瀬戸田の人々がこのショップハウスを少しでも身近に感じられるよう、可能な限りローカル材を用い、施工も地元の職人とともに手がけています。
もとは空き家だった住宅の屋根や庇はそのままに、ファサードをセットバック。自然と人々が触れ合い、店と街とがつながる交差点のような存在になるようにと店先に残した余地は、通りを行き交う人々の雨宿りや日除け代わりにも使ってもらえます。海を望む2階には、広々としたテラスを設置。こちらも通りの人々と視線が交わせるように敢えて壁を設けず、オープンなままにしました。さらに、1階の床は通りと同じレベルの土間続きにすることで、内/外の境界をあいまいに。ガラスの引き戸を開放すれば、行き交う人々の視線に何気なく店の様子が映り、自然と挨拶を交わせるような絶妙な距離感と開放感をもたせています。
「ショップハウス」は、見た瞬間に興奮を覚えるようなインパクトも、一気に人々を寄せ付ける存在感も十分にはないかもしれません。でも、じわじわと、確実に周囲の人が立ち寄り、環境を育てていく。そんな安心感のある場所になってほしいと思っています。
まだ1軒しかない「ショップハウス」ですが、来年までに3軒を追加。さらに2025年までに10軒が完成する予定。このように小さな点をひとつずつ丁寧につくっていけば、次第に点と点がつながり、人が動き、交わりながら、街が活気づいていくことでしょう。
Information
SOIL Setoda / SOIL Stay
港の目の前に佇む、ローカルの中と外を繋ぐ拠点。ひ、ふ、み
尾道瀬戸田「しおまち商店街」にてお弁当、お惣菜、各地の調味料や食品、食にまつわるセレクトアイテム、お土産を販売。