一保堂茶舖 青山店

青山に多様な茶葉(ちゃよう)が織りなす茶畑をつくる
創業1717年の一保堂茶舗は、300年以上にわたり京都で日本茶の伝統と革新を守り続けてきた。
近江商人の渡辺利兵衛によって「近江屋」として始まり、幕末には「茶一つを保つように」と山階宮から「一保堂」の屋号を賜り、以来“お茶ひとすじ”の精神を現代へと紡いできた老舗である。
お茶を喉の渇きだけでなく心の渇きも癒す存在として捉え、多様な日本茶と、その魅力を届ける空間づくりにも常に進化を求めてきた。
この進化の過程で私たちは何を空間に込めるべきであろか。
試行錯誤の上導きだしたコンセプトは「青山に太陽・風・土を感じる茶畑をつくる」というものに行き着いた。
南青山の閑静な住宅街、根津美術館の緑を借景とした2階に、現代の都市でありながら“茶畑”の息吹と自然を創造する空間をつくりだした。
店舗中央に浮かぶ放射状に和紙を張り包めた円形下がり天井は太陽のメタファー(実際の恒星の1/250兆スケール)として存在し、室内全体を包みこむ中心的存在として出現している。
床材には漆塗りの麻布を用い、しっとりとした土壌の感触に包まれた茶畑にいるような、ここではない場所の気配を作り出そうとしている。
この天地に挟まれた垂直面の根津美術館の樹々を眺める大きなガラス開口腰面には、サイズの異なるリブガラスによる積層する茶畑のグラフィックを施し、視線の抜けは確保しながらも着席したゲストの居心地を守る機能も兼た。
強い日差しに対応すべく設置した「寒冷紗」カーテンも、実際の茶畑ではお茶をまろやかに育てる機能から拝借したアイディアである。
光と風を穏やかに通しながら喫茶の時間の心地よさを大切にしてもらいたい。
一方、物販エリアは喫茶エリアとは対照的に“茶畑の地中”を表現し、茶葉が根を張る豊潤な土の静けさと落ち着きを左官職人による土壁・土天井で演出。
抹茶、玉露、煎茶、番茶など多彩な茶葉に加え、急須など茶道具も豊富に取り揃え、店員と相談しながらゆっくり選べる設えとした。
土と共に使用した桜材は、近く青山墓地で見られる壮観な桜並木に想いを馳せてほしいとも考えての採用である。
地上の光あふれる喫茶エリアと、地中の静謐な物販エリア。
その明確なコントラストと共存が、一保堂青山の空間の大きな特徴となった。
“太陽・風・土”が織りなす茶畑の世界観とともに、老舗が磨き続けてきたお茶の本質を、現代の暮らしにふさわしい進化の過程を皆様と育てていければと願う。
-Shop Information-
Ippodo Tea Aoyama
https://www.ippodo-tea.co.jp/
Data
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Client
Ippodo Tea Co., Ltd.
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Completion
2025 , 08
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Total area
225.26㎡
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Design
Masaki Kato, Chayo Shinozaki
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Photo
DAISUKE SHIMA